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最高裁判所第三小法廷 昭和24年(新つ)3号 判決

主文

本件抗告を棄却する。

理由

本件抗告の理由は末尾に添えた書面記載の通りであって、要するに、被告人竹田善一に対する昭和二二年勅令第一号及び衆議院議員選挙法違反被告事件の第一審裁判所たる原審が、右事件の公判において、檢察官から証拠調を請求した檢察官の面前における被告人外の渡辺幸三、涌井嘉市及び野崎登美治の各供述録取書を受理してこれにつき証拠調をする旨の決定を為し、さらにこれに対する弁護人の異議申立を却下する旨の再決定をしたことには、憲法違反が存する、というのである。

抗告論旨第一点は、原裁判所は、前記各証人が檢察官に対する供述録取書では全事実を供述しているのに、公判廷において証言を拒絶したことは、刑訴法第三二一條第一項第二号にいわゆる「実質的に異った供述をしたとき」に当り、且公判廷における供述よりも檢察官の面前でした供述を信用すべき特別な情況の存することが認められるとして、右の各供述調書を証拠として採用する決定をした、しかしそれは同條の解釈を誤ったものであり、従って、原決定は刑訴法所定の要件を欠いた違法証拠によって刑事裁判を為さんとするもので、憲法第三一條に違反する、刑訴法が特に例外的に認めた特殊の場合の要件が存しないのに、被告人に反対訊問の機会を全然與えられなかった証人供述調書を証拠に採用するもので、憲法第三七條第二項に違反するというのである。

しかしながら、原審が公判において所論の供述録取書を証拠書類として受理することができるかどうかは、もっぱら刑訴法第三二一條及び第三二二條の解釈如何によるのであるから、全く訴訟法上の問題であって、憲法上の問題ではない。抗告人は原審の手続が憲法第三一條及び第三七條第二項に違反する、と主張するけれども、これは実質上訴訟法違反の主張であるのを強いて憲法問題に結び附けたにほかならぬのであって、このような訴訟手続に関し判決前にした決定でもっぱら訴訟法上の問題にとゞまり憲法上の問題に触れないものに対しては当裁判所に抗告することができないことは、刑訴法第四三三條第一項によって明らかであるから、所論の刑訴法解釈上の争点について当裁判所が判断を示すべきでない。

抗告論旨第二点は、前記の各証人はいずれも当時既に本件被告人と共犯関係にあるとせられる犯罪事実について起訴されており、実質上は自己の被疑事実について取調を受けたることになるのであるから、証人等は当然憲法の規定によって供述を拒み得るものであり、檢察官は刑訴法第一九八條により、予め供述を拒むことができる旨を告げなければならぬのに、その默否権を認めずして供述をさせ、供述調書を作成したのであって、すなわち問題の各供述調書は、檢察官が刑訴法の解釈を誤り、実質上の被疑者、被告人である証人等に対して憲法第三八條第一項によって保障された被疑、被告事件の供述拒否権を認めずして作成した違憲の供述調書であり、これを証拠に採用する原審の証拠調決定も亦憲法違反である、というのである。

しかしながら、問題の各供述調書が刑訴法第一九八條違反であるか否かはしばらく措き、憲法第三八條第一項が默否の権利を告げないで訊問することまでも違憲とする趣旨でないことは、当裁判所大法廷の判例とするところであるから(昭和二三年(れ)第一〇一号同年七月一四日判決、昭和二三年(れ)第一〇一〇号同二四年二月九日判決)、この点も論旨第一点の主張と同様、刑事訴訟手続のみに関する主張に帰し、特別抗告の理由にならない。

よって、刑訴法第四三四條第四二六條最高裁判所裁判事務処理規則第九條第四項に従い、主文の通り決定する。

以上は当小法廷裁判官全員の一致した意見である。

(裁判長裁判官 長谷川太一郎 裁判官 井上 登 裁判官 島 保 裁判官 河村又介 裁判官 穂積重遠)

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